夜の帳に憂う月

甘神夜重は、自室で悶々としていた。

今は夜の20時。月の綺麗な夜に、彼女が悶々としている理由は一つ。

 

(私の誕生日、朝ちゃんと夕ちゃんはお祝いしてくれたけど、瓜生くんは

まだ何もしてくれてない……)

 

お祝いしてくれると思っていた瓜生は、今日は舞昼さんの呼び出しで

施設に帰っていて、まだ帰ってきていない。

 

「瓜生くん……」

「呼んだか?」

 

その声に振り返ると、瓜生が立っていた。

 

「う、瓜生くん……今帰ったの?」

「ああ、施設のチビがなかなか離してくれなくてな。悪いな、誕生日なのに

こんな遅くなっちまって……。これ、良かったら受け取ってくれ」

 

瓜生が差し出したのは黒猫柄のヘアピンだった。

小さく月があしらわれたそれを、夜重は目をパチクリさせながら受け取って

まじまじと見つめた。

 

「有難う、瓜生くん……。一生大切にするね」

「大袈裟だろ……。まぁ、大事にしてくれると助かる。結構したしな……」

 

そう言って目を背ける瓜生の顔は、耳まで真っ赤だった。

夜重はクスッと笑って、瓜生の頬にキスをした。

途端に瓜生は真っ赤な顔を更に赤くして固まってしまった。

 

「瓜生くんは初心だね。そういうところも私は好きだけどね」

「からかうのはやめろ……」

 

(瓜生くんの誕生日には、何かいいものをあげるからね)

 

~完~