休日の[X]は買い物に出向く
成幸はその日、久しぶりに東京に出てきた。
目的は恋人になったばかりのあすみと服を選びに行くことになったので、
駅前で待ち合わせることになったのだ。
成幸はあすみに誘われた時、またからかわれているのではないかと思ったが、
つい数日前恋人になったばかりなのにそれはないだろう、と思い直した。
待ち合わせ10分前。どんな服装で来るのだろう、とか考えて、成幸が
そわそわしていた時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「お待たせ、なりくん! さぁ行こうぜ!」
「あすみさん……おはようございます」
そう言った後、成幸は文乃に言われた言葉を思い出した。
『お出かけ時はまず服を褒めるべき!』
「あすみさん、その……その恰好、似合ってますね」
「なっ……有難う、なりくん。何着てくかすごい悩んだんだ…。
褒めてくれて嬉しい……」
真っ赤になったあすみを見て、成幸は可愛いな、と思う。
出会ったばかりの頃、からかわてばかりだったあの頃とは大分雰囲気が変わった。
そして二人でブティックに向かう。お互い照れくさくて会話も無かったが、
今更二人にそんなことは関係なかった。言葉に出さなくてもお互いの気持ちは
分かっているのだ。
「なりくん、この服とかどうかな?」
「ちょっと露出が多くないですかね? あすみさんにはこっちが似合いますよ」
「なりくんがそう言うなら……もう寒いし、セーターとかにするか?」
あすみが持ってきたのは緑のセーターだった。成幸としてはあすみの服を選ぶつもりだったのだが、あすみは完全に成幸が着る服を選んでいるつもりらしい。
「そうですね、これから寒くなりますし……。あすみさん、このマフラーとかどうですか? ドハっちゃん柄ですよ」
「ドハっちゃん!! そんなのあるのか!?」
「はい、しかも最後の一着らしいです」
あすみの目がキラキラ輝いた。
そんな彼女を見て、成幸はますます可愛い人だな、と思う。
そんなこんなで、マフラーとセーターを買ってから店を出た。帰ったらタイチにからかわれることは明白だったが、それでも充実した休日になったのだった。
~完~