小妖精と星の出会いは[X]に相まみえる

わたしの名前は古橋文乃。高校三年生です。

そんなわたしの仲のいい人がーー。

 

「よう古橋。お前もドハっちゃんを見に来たのか?」

「えへへ。実はそうなんです。先輩にドハっちゃんのぬいぐるみをあげてから

無性にハマっちゃって……」

 

ドハっちゃんというのは『ドクターフィッシュ』という魚をモチーフにした

キャラクターのことで、正式名称は『ドクターフィッシュ8号』である。

 

「そうか、お前も好きになってくれたか! 同志が出来て嬉しいぜ!」

「わたしもですよ、まさか小美浪先輩と共通の趣味が見つかるなんて思いませんでした……」

「実はアタシもだ……お前とは正直後輩を巡る恋敵だと思ってたからな……。

それはそうと古橋……ちょっといいか?」

「……はい?」

「実はアタシ、お前のこと考えると勉強も手につかねーんだ……」

「え、ちょ、先輩……これはどういうことですか……? 冗談、ですよね?」

 

あすみは文乃を押し倒したのだ。ドハっちゃんの話をしていたはずなのに突然

押し倒され、文乃は軽く混乱した。

 

「冗談なわけねーだろ? アタシは本気だ」

「えええっ!? どどど、どうしてそうなるんですか!?」

「いいだろーが。アタシはずっと初めて会った時からこうしたかったんだよ」

「………」

 

突然の事態に、文乃は最早言葉を失い、仕方なくあすみに身を委ねた。

 

 

水色の希望は時に[X]になる

明けましておめでとうございます、唯我水希です。

今日は家族でお父さんのお墓参りに行った後、お兄ちゃんと二人で初詣に行く予定です。

 

「水希、準備出来たか? そろそろ出かけるぞー」

「待ってお兄ちゃん、あと少しだから! 女の子は支度に時間がかかるものなの!

文乃さんにも言われたでしょ? 女心練習問題だよ!」

「うっ……古橋の名前を出されると何も言い返せん……」

 

古橋文乃は成幸の女心練習問題の師匠である。

彼女は成幸が女心を分かっていないと指摘し、的確なアドバイスをくれる。

時々毒舌も混じるが、彼女は成幸の親友でもある。最初は名前も覚えてくれなかったが、その時からすると立派な進歩だ。

 

「お待たせー! 準備出来たから行くよ!」

「お、おう。……あれ? 何か水希、いつもと雰囲気が違うな……。

……あ、ちょっと化粧してないか? 何となくだけどちょっといい香りが……」

「えへへ、分かった? 初詣だしやっぱりちょっとお洒落しようと思って……。

似合う?」

 

水希はそう言ってクルクルと回ってみせた。

成幸はいつもと違って大人っぽい水希の姿に、思わず目を逸らした。

 

「ちょっとお兄ちゃん! 何で目を逸らすのよ!?」

「い、いや別に……ちょっと、我が妹ながら可愛いな、と思って……」

 

水希はその言葉に、真っ赤になってしまった。

 

(もう、お兄ちゃんの女たらし……! スマホ電話帳もも女の子のアドレスばっかりだったし、どこまで女の子が好きなのよ!?)

 

そう心の中でぼやきながら、水希は家の鍵を閉め、成幸とともに家を出た。

シン・みつめ組長物語

神饌組入隊が決まり、ひと段落ついた十八とイザは、みつめから突然祝言を挙げる

ように言われ、一度は驚いたが今は大分落ち着いていた。

十八はみつめと共に街を散歩しながら、イザに似合う髪留めを探していた。

 

「これなんかどうかな? 花がモチーフになってるんだけど」

「そうだなー……これもいいけど、俺としてはこっちの四つ葉のクローバーもいいと

思うけど……あーあ、イツツが居ればなー……」

 

イツツは別の町に神食が出たので出張中で、今は東京に居ないのだ。

彼女が居れば女の子が好みそうな物を選んでもらえたと思うので、留守なのが悔やまれる。

 

「そうだね、戻ってくるのは早くても3日後だから、それまで待つわけにもいかないし……」

「そうだよな……あ、これなんかどうだ? 水色の髪留め!」

 

十八が選んでいるのは祝言の時にイザに付けてもらう髪飾りなのだ。一生に一度の祝言なのだから、可愛いものを選んでやりたい、ということで急いで選んでいる、ということなのだ。

 

「良いんじゃないかな? さぁ、会計を済ませようか」

「ああ。じゃあ会計済ませてくるから、組長は待っててくれ」

「分かった。その辺をブラブラしてるから、終わったらラーメンでも食べようか。

そろそろお昼時だしね」

「そうだな。そう言えば腹減ったな……」

 

近くにみつめと初めて会ったラーメン屋があったので、そこで昼食を食べることに

決め、十八は会計に向かい、みつめは近くの店を物色し始めた。

 

 

フィン・エイムズと愉快な仲間達(フィン・エイムズ誕生祭2021)

イーストン魔法学校内を、フィン・エイムズは借りた本を返す為に図書館棟へ向かっていた。彼はマッシュやランス、ドットやレモン達と放課後に遊ぶ約束をしているので、

それまでに用事を済ませておこうと思ったのだ。

 

「ふぅ……ちょっと借り過ぎたかな……」

そんなことを呟きながら歩いていると、誰かにぶつかった。

 

「あ……すみませ……」

「フィン君……」

ぶつかった相手は放課後遊ぶ約束をしているメンバーの中の紅一点、レモン・アーヴィンだった。

彼女もフィンと同じように大量の本を抱えていた。

 

「凄い量の本ですね。……って、私も人のこと言えないですけどね」

そう言って「えへへ」と笑ってみせる。そんな彼女を見てフィンは思った。

 

(こうして見るとレモンちゃんて可愛いな……)

 

今まで異性として意識したことの無かったレモンへの想いに気付いたフィンは、

真っ赤になって顔を背けた。途端にレモンがむくれた。

 

「どうして顔を背けるんですか? 私、何か気に障ることしちゃいましたか……?」

「い、いや、何でもないよ。気にしないで?」

「それならいいですけど……何かあるなら言って下さいね?」

「うん……気遣ってくれてありがとう」

 

フィンとレモンは微笑みながら、一緒に図書館棟へ歩き出した。

氷の華と幸せな[X]を(桐須真冬誕生祭2021)

2021年12月28日、成幸は家の近所のコンビニの前でちょっとお洒落をして

人を待っていた。その人物は高校時代の恩師で現在恋人関係にある桐須真冬。

今日は真冬の誕生日なので、そのお祝いと成幸の父のお墓参りに行こうということに

なったのだ。

 

(真冬さんまだかな……?)

 

約束の10時まであと15分なのだが、実は成幸は一時間前ーーつまり9時からソワソワして落ち着かずにかなり不審人物のような体で時々道行く人に後ろ指を刺されながら

待っていた。

 

「お待たせ、成幸君。待ったかしら?」

「おはようございます、真冬さん。全然待ってないです。今来たところです!」

「そう、よかったわ。じゃあ早速行きましょうか」

「は、はい!」

 

まずはお洒落なカフェに入り、パンケーキと紅茶を食べ、次はショッピング。

真冬の誕生日なので成幸はバイト代を稼いで貯めたお金でネックレスを買い、プレゼントをした。そしていよいよ、輝明のお墓参りに行くことになった。

 

『六辻ヶ丘霊園』と名前の書かれた墓地に着いた二人は、バケツと柄杓を持って

水をバケツに汲み、途中の花屋で買った花を供えて線香に火を付け、二人で

お墓に手を合わせた。

 

(親父、俺は今幸せに暮らしてるよ。好きな人も出来たんだ。母さんも水希も葉月も

和樹も元気にやってるから、心配要らないよ)

 

(先生、私は好きな人と幸せな生活を送っています。どうか安らかに……)

 

二人はそれぞれの気持ちを祈って、バケツや柄杓を片付けてその場を後にした。

 

~完~

 

 

 

もしみつめが神饌組隊長だったら(神食の料理人11話のその後)

「なぁ兄ちゃん、その金剛魚っていう神食を食べればイザの腕が

治るって本当か?」

 

ラーメンをご馳走になった後、十八はなつめと一緒に街を歩いていた。

イザはあの後神食缶詰を売るために別行動を取っている。

 

「本当だよ。ただ金剛魚は神出鬼没で、どこに現れるのかは僕にも分からないんだ。

目撃情報も少ないし、ゆっくり探していくしかないね」

 

「そうなのか……ていうか、何でそんなに詳しいんだ? 兄ちゃんも見たことないんだろ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、なつめの顔つきが変わった。

 

「見たことは確かに無い。でも、僕は神饌組の隊長だからね。神饌組には

色んな街を旅してきた人間が多く居て、その中には金剛魚についての情報を

持ち帰った者も居る。僕はその情報を彼らから聞いたんだよ」

 

「へー……ってイツツと同じ神饌組の隊長なのか!? 確かに只者じゃないと思ったけど……」

店先で怯えていたのは演技であること、隊長ともなればそう簡単に素性を明かせないのだとなつめは言った。十八に話したのはイツツから話を聞いていて、信頼に足ると判断

したからだと言う。

思えばイツツも神食が襲ってくるまで身分を明かさなかったな、と思いながら十八は

その話を聞いていた。

 

(これでイザの腕を治してやれる。待ってろよ、金剛魚……!)