可愛い弟のためだからよォ。(不死川玄弥誕生祭2022)
「オイ玄弥ァ。ちょっと面貸せ」
「あ、兄貴……」
家の廊下でいきなり兄の実弥に鉢合わせた玄弥は、思わず冷や汗が出た。
兄のことは嫌いではないが、鬼を喰って戦ってきたと言った時の兄の激昂を思い出せば
当然のことだ。
「………」
気まずい沈黙が流れる。
(このまま逃げ去りたい……助けてくれ、炭次郎……)
兄に目つぶしをされかけた時に助けてくれた親友の顔が脳裏をよぎった。
しかし彼は今任務に出ていて不在。善逸も今日は用事があると言っていた。
(どうしよう……)
もはやこれまでか、と思ったその時、兄の手が玄弥の方に伸びてきた。
咄嗟に受け身を取ろうとした玄弥は、次の瞬間唖然とした。
兄は玄弥に、向かって小さな包みを差し出したのだ。
「兄貴、これは……?」
「あー……柄じゃねえかな、とも思ったんだけどよ。今日はテメーの誕生日だろ?
受け取ってくれ」
誕生祝いのプレゼント。鬼を喰った自分の誕生日なんて忘れられていると思っていた。
殺してやるとまで言われたのが嘘のようだった。
「兄貴……有難う。大切にするよ」
そう言って包みを破ると出てきたのはお守りだった。
「任務は命懸けのもんが多いからな。大したもんじゃねーけど、持っていけ」
「………」
嬉しすぎて言葉も出なかった。心の中で玄弥は兄にもう一度有難うと呟いた。