映像的な甘い香りを(ピピピバレンタイン/ラキフル)

今日は2月14日、バレンタインデー。

ラッキーの通う音高でもあちこちでチョコを渡す生徒で溢れ返っていた。

ラッキーはレイジロウから大量の薔薇を貰い(学校に持ち込めないので家に置いてきた)、今日はバレンタインということを思い出したまま学校にやってきた。

レイジロウの気持ちは嬉しいが、やはり男としては女子からチョコを貰いたいな、と

思っていた。

 

「園田くん、おはよう」

 

声をかけてきたのは古須亜子。首席の女生徒でラッキーの友達だ

 

「おはよう、フルスさん」

「今、時間ある? ちょっとでいいから……」

「うん、あるけど……何?」

「実はね……園田くんにはピアノで願いを叶えてくれたから、お礼をしたいと思って、

チョコを作ってきたの。義理だから遠慮なく受け取って欲しいの」

 

ラッキーはその瞬間硬直した。女子からチョコを貰いたいとは思っていたが、

まさか音上を恨んでいる亜子からチョコを貰えるとは思っていなかったからだ。

 

「いいの……? 俺、元音上なのに……」

「音上とかそういうのじゃないの。これは感謝の気持ちだから……」

「ありがとう、フルスさん。お返し、楽しみに待っててくれよ!」

「う、うん。待ってる……」

 

照れ臭そうに言う亜子に微笑み返し、二人は音楽室へ向けて歩き出した。

甘い昼下がりにティラミスを(ピピピ/ラキミー)

ある春の日、ラッキーはおばさんが留守の間に街へ出ることにした。

今日はミーミンと会う約束をしていて、美味しいと評判の近所のケーキ屋で

待ち合わせをしているのだ。

 

(ミーミンの食欲は半端ないからな~……俺の小遣い、一瞬で吹っ飛びそう……)

などと若干暗い気持ちになりながら、待ち合わせの場所に行くとミーミンが待っていて、ラッキーに気付くとニコニコ笑ってみせた。

いつもは高飛車なミーミンが笑うのは、甘いものとラーメンを食べる時だけと相場は決まっている。父親の楽音はそういうタイプではないし、母親は入院中でそれどころではないので、ミーミンに付き合えるのはラッキーだけなのだ。

 

「おはよう、ミーミン。今日もティラミスだよな? 昔からミーミンはケーキの

中でも特にティラミスが好きだったもんな~」

「おはよ、ラッキー。あたしの好みを覚えてくれてるの、今じゃラッキーだけだもんね。今日はあたしが奢るから、好きなだけ食べていいわよ」

 

ミーミンの言葉に、ラッキーは唖然とした。当然自分が奢ることになるだろうと思っていたラッキーは驚いて目を瞬かせた。

 

(ミーミンがケーキを奢る……? あの高飛車なミーミンが……!?)

などとかなり失礼なことを思いながら、せっかくの機会なのでラッキーはミーミンの

言葉に甘えて、ショートケーキとモンブラン、オペラとコーヒーをご馳走になった。

 

「有難う、ミーミン。次会う時は俺が味噌ラーメン奢るから。替え玉もOKだから、

好きな時に言ってくれよな!」

「ホント!? 有難うラッキー。楽しみにしてる。またね!」

 

そう言って走り去っていくミーミンを見ながら、ラッキーは彼女と反対方向へ

歩き出した。

ラッキー、チョコだよ!(PPPPPP/ラキレイ)

「ふぁああ~……。あ、レイジロウからLINE来てる……えーっと何々…?

『僕今日は日本に帰るから、期待して待っててね☆』か。期待って言っても

一週間前に会ったし、何を期待すればいいんだ……?」

 

口ではそう言いつつもソワソワしているラッキー。

待ち合わせの時間より早く空港に向かったせいで、飛行機が着くまでかなり暇を

持て余していた。

搭乗口から出てくる人達を眺めていたら、見慣れた顔が視界に入った。

 

「ラッキー! お待たせ!」

「何で待ってたって分かるんだよ……?」

「え? だって、その積み重ねられたコーヒーの空き缶を見れば察しはつくよ」

「げ……流石だな、レイジロウ……で、LINEに『期待して待ってて』って書いてあったけど、いったい何が……」

「ああ! これだよ、これ!」

 

そう言ってレイジロウが取り出したのは山盛りのチョコレートだった。

見慣れない包装のものばかりだ。レイジロウはイタリアに居たから、恐らくイタリアで

有名なチョコなのだろう。

 

「ちょ、チョコ……それにしたって多過ぎないか……?」

「いや、僕もそう思ったんだけど、あれもいいな、ラッキーはオムライスが好きだから

エッグ型のチョコもあげたい、とか考えてたらこんなになっちゃって……。

検閲でちょっと不審な目で見られたけど、平気だよ」

「そ、そうか……でも嬉しいよ、有難う、レイジロウ」

 

そう言って二人は仲良く手を繋いで歩き出した。

 

 

 

爆発と炎のロンド(轟焦凍誕生祭2022)

「よぉ、轟。今時間あるか?」

「爆豪……ああ、今は空いてるが、どうかしたか?」

「この前デクが言ってただろ? 新しく出来たカフェの料理が美味いってよ。

だから、お前さえ良ければ一緒に行かねーかな、と思ったんだけど、どうだ?」

 

『かっちゃん、轟くん。見てこの記事! まだオープンしたばかりなんだけど、

パンケーキが凄く美味しいって評判なんだよ。今度休みに行こうよ!』

 

デクが持ってきたのは新聞の切り抜きだった。

ヒーロー科の授業が終わるといつも一緒に行動しているデクと爆豪と轟は、

よくつるんで美味しいと評判の店に行っているのだ。

普段はそれぞれの好きな店に行くことが多いが、今日爆豪が轟を誘ったのは今日が轟の

誕生日だからだ。

緑谷は期末試験で赤点を取ってしまい、残念ながら不参加なので、爆豪は仕方なく

二人で行くことにしたのだ。

 

「じゃ、早速行こうぜ。10時開店だから今から行けば間に合うだろ?」

「そうだな。じゃあ行くか」

 

そして二人は目的のカフェに向けて歩き出した。

歩くこと15分、二人は緑谷が持ってきた切り抜きの店に入り、通された席でオムライスと蕎麦を頼み、待っている間他愛ない話をしていた。

 

「この前姉ちゃんが俺に言ったんだけどよ、『アンタもそろそろ彼女とか見つけなさいよ』とか言うんだよ。うるせーの何のって……」

「俺は親父から何も言われないな。『お前の好きなようにしろ』って感じだからな」

「お前はいいよな、自由な家風でよ。俺もそんな風に自由に生きてみてーよ」

「自由過ぎるのも考えものだぞ。決まりが無いから兄貴はヴィラン側に行っちまった

わけだからな」

「……悪い」

 

轟の兄は焦凍の才能に嫉妬し敵であるヴィランに堕ちてしまったので、爆豪は悪いことを聞いたと反省して短く謝った。

 

「気にしないでくれ。そういう意味で言ったんじゃないからな」

「でもよ……お前、兄貴があんなんになってよく雄英に居られるな」

「だからこそだろう? 俺はいつか立派なヒーローになって兄貴のような人を

出さない世の中に変えてみせるんだよ」

「………」

 

その轟の瞳には爆豪が今まで見たことのない光が宿っていた。

いつも無表情で何を考えているのか分からない轟の本心が垣間見えた気がした。

 

 

『アオのハコ』×『鬼滅の刃』

「大喜ー! 大喜ー!」

「雛……その『大喜』って呼び方はやめろって言ってるだろ。任務中は

跳柱って呼べ」

「いいじゃーん、小さい頃からの幼馴染で、知らないことなんてないんだし~」

 

鬼殺隊の蝶柱と跳柱の大喜と雛は小さい頃から一緒に育った幼馴染。

数年連絡を取っていなかったが、鬼殺隊に入って柱として再会した時は

驚いた。

 

「お館様のところに行くぞ。今日は柱合会議だろ?」

「そう言えばそうだったね。私、不死川さんとはあんまり顔合わせたくないなー。

あの人、何かいつも怒ってる感じだし……」

「実弥はあれが普通だ。お前もいい加減慣れろよ」

「無理だよ、ほら、いつだったか玄弥君にもきつく当たってたじゃん?

あれ見た時から何か本能で拒否しちゃうって言うか……」

「気持ちは分かるけどさ、慣れないとやってけないぞ?」

「そうだけどさ……」

 

不死川実弥は確かにきつい性格だが、それが彼の素なのだから仕方ない。

 

(雛もそういうもんだって割り切ればいいのに……)

 

そう思いながら大喜は雛と並んでお館様のところへ向かった。

 

風水の日常(さねぎゆ)

無惨を倒して数ヵ月。

激闘を生き抜いた実弥と義勇は、生き残ったたった二人の柱だ。

他の柱は激闘の中で命を落としたこともあって、二人は自然と一緒に居る

時間が増え、食事を共にすることも多くなった。

 

「よォ義勇、ちょっといいか?」

「……実弥か。ああ、ちょうど用事が終わったところだ。付き合おう」

 

二人は時々時間が合えば二人で街をブラブラすることも増え、一緒に

買い物をする機会も増えた。

 

「それで、今日はどこへ行くんだ?」

「ああ。実は最近仲良くなった奴が居てな、そいつのために贈り物を

しようと思うんだ。そいつが好きな物が何なのか分からなくてよ、それで

一緒に選んで欲しいんだが……頼めるか?」

「お安い御用だ。そいつの好みを教えてもらえるか?」

「うーん……まず、蕎麦が好きで趣味は詰め将棋だ。時々猫と戯れている姿も

見かけるな」

「そうか……なら、猫の根付とかはどうだ? 蕎麦はいつ渡せるか分からないし、

将棋はそいつが用事が無い時しか出来ないからな」

「それはいいな。じゃあそれを探すか」

 

そう言って二人は店に向かって歩き出した。

店内に入り猫の根付を見つけて会計を済ませ、二人は店を出た。

行きつけの蕎麦屋で昼食をしていると、実弥が先程買ったばかりの根付を

義勇に差し出してきた。

 

「……これは……?」

「実はお前にやりたくてよ、お前の好みが分からないから、こうして付き合って

もらったってわけだ」

「そうか、有難う。大切にする」

「おう、そうしてくれると俺も助かる。そのために選んだんだからな」

 

そう言って二人は昼食を終え、帰路に着いた。

可愛い弟のためだからよォ。(不死川玄弥誕生祭2022)

「オイ玄弥ァ。ちょっと面貸せ」

「あ、兄貴……」

 

家の廊下でいきなり兄の実弥に鉢合わせた玄弥は、思わず冷や汗が出た。

兄のことは嫌いではないが、鬼を喰って戦ってきたと言った時の兄の激昂を思い出せば

当然のことだ。

 

「………」

 

気まずい沈黙が流れる。

 

(このまま逃げ去りたい……助けてくれ、炭次郎……)

 

兄に目つぶしをされかけた時に助けてくれた親友の顔が脳裏をよぎった。

しかし彼は今任務に出ていて不在。善逸も今日は用事があると言っていた。

 

(どうしよう……)

 

もはやこれまでか、と思ったその時、兄の手が玄弥の方に伸びてきた。

咄嗟に受け身を取ろうとした玄弥は、次の瞬間唖然とした。

兄は玄弥に、向かって小さな包みを差し出したのだ。

 

「兄貴、これは……?」

「あー……柄じゃねえかな、とも思ったんだけどよ。今日はテメーの誕生日だろ?

受け取ってくれ」

 

誕生祝いのプレゼント。鬼を喰った自分の誕生日なんて忘れられていると思っていた。

殺してやるとまで言われたのが嘘のようだった。

 

「兄貴……有難う。大切にするよ」

 

そう言って包みを破ると出てきたのはお守りだった。

 

「任務は命懸けのもんが多いからな。大したもんじゃねーけど、持っていけ」

「………」

 

嬉しすぎて言葉も出なかった。心の中で玄弥は兄にもう一度有難うと呟いた。